ボーディングスクールのリアルライフ「食事編」
2025.04.08
基本情報皆さんは、イギリスのボーディングスクールで、生徒がどのような生活を送っているかご存知ですか?
各学校の公式サイトを見れば、勉強やスポーツに関しては、なんとなく想像ができると思います。しかし寮の施設の内部や日々の食事などについては知り得るのが難しいところです。
今回はイギリスのボーディングスクール生活で、とても大切な役割を担う「食」についてがテーマ。5年間(時にそれ以上)、ボーディングスクールで暮らす留学生にとって、食は勉強やスポーツと同じくらい重要な要素かもしれません。特に日本のように、何を食べても美味しい国から来た生徒にとって、イギリスのボーディングスクールでの「食」は学校生活全体のクオリティに大きく影響すると言っても大袈裟ではないでしょう。
ボーディングスクール生は、どのような料理を、どのような環境で食べているのでしょうか?
現在のボーディングスクールの食事事情
読者の中には「イギリス=ご飯のおいしくない国」と認識している方も多いかもしれません。確かに、私がボーディングスクールの生徒だった時には、朝食に冷たいおかゆ(Porridge)、昼食にソーセージとポテト、夕食には何らかの肉料理という、とてもシンプルな食事が基本でした。
ですが、そのような時代は終わったと断言できます。私は仕事柄、あちこちのボーディングスクールを訪れ、学校のダイニングホールで他の生徒と一緒にランチを食べることが多いのですが、今ではほとんどの学校で、昼食は2-3種類のメインディッシュから選ぶことができ、温かい料理と冷たい料理の両方が提供され、充実したサラダバーがあり、デザートも用意されています。またグルテンフリーやビーガンの選択肢も常にあり、食事のクオリティはかなり高いと言えるでしょう。
学校はサードバーティであるケータリング会社と契約をしています。生徒からの評判が悪ければ、ケータリング会社は別の会社に取って代れられてしまうので、生徒から人気のメニューを提供し続けることに一生懸命です。常においしいメニューがダイニングホールに並ぶ秘密はここにあります。
意外と人気? イギリスの伝統料理
つい最近、伝統的なボーディングスクールでランチを食べましたが、寿司、ラザニア、ローストチキン、サラダなどが並び、生徒と教師にとってバラエティに富んだ選択肢だと感じました。アジア料理やイタリア料理が日常のメニューに入る一方で、イギリスの食文化の伝統もきちんと残されています。その代表が金曜日の「フィッシュ&チップス」です。イギリスではキリスト教の伝統に則り、金曜日には肉を食べずに魚を食べる習慣があることから、ほとんどのボーディングスクールで金曜日のメニューはフィッシュ&チップスと決まっています。また日曜日にはヨークシャープディングとグレービーソースと共に「サンデーロースト」が供されたり、マッシュポテトの入った「シェパーズパイ」が出されたりと、イギリスの伝統的な料理も、意外と留学生たちに人気です。
小学校のボーディングスクールでのメニューは?
プレップ(小学校)のボーディングスクール、Port Regis (ポート・レジス)や Millfield PrepSchool(ミルフィールド・プレップ・スクール)でも、色とりどりのメニューがブッフェのテーブルに並んでいました。小学校では小さな子どもたちがバランスよく食べる習慣を身につけられるように、野菜は緑、タンパク質はxx色というように、メニューに栄養素が一目でわかるシールが貼られていて、子どもたちはそれを見ながら、全部の色がお皿の上に乗るよう、つまりバランス良い食事を取れるように工夫をします。お肉やパスタばかりがお皿に載っていないか、最後に先生が厳しくチェック。親から遠く離れた小さな子どもたちが、十分な栄養を摂り、成長できるように、こうして学校全体で見守っているのです。
インターナショナルな食文化を意識した食事
生徒の国際化が進んでいるボーディングスクールでは、食堂のメニューもインターナショナル。アジア風の味付けをした焼きそばやキーマカレーなど、アジア出身の留学生を意識した料理が頻繁にブッフェに並びます。先日訪れたミルフィールド・スクールでは、なんと「お好み焼き」がランチメニューにありました。実は、このお好み焼き、私が東京に出張に行った時に大好きになった料理の一つです。ミルフィールド・スクールでは、それがベジタリアンメニューとしてアレンジされていました。野菜がたっぷり入ったお好み焼きの上には、ブラウンソース。見た目も味も、私が東京で食べた日本のお好み焼きそのままでした。
ミルフィールド・スクールの入試課部長のJames Postle(ジェームス・ポスル)氏はこう話してくれました。
「ミルフィールド・スクールには、世界75カ国からの生徒が在籍していることから、伝統的なイギリスの味だけでなく、生徒たちが懐かしくなるような各国の料理も用意します。興味深いことに、そういった料理はイギリス人や他国からの留学生にもとても人気があり、食を通した文化交流が生まれています。日常、寮で暮らす子どもたちにとって、食は大きな楽しみの1つですから、できる限り多くの笑顔が見られるようなメニューを取り揃えたいと思っています」
大きなダイニングホールと小さなダイニングルーム。それぞれのメリットは?
ミルフィールド・スクールのダイニングホールのように、全校生徒が同じ場所で朝、昼、晩の食事をする学校もあれば、寮の中にある小さなダイニングルームで、寮の仲間と3食を共にする学校もあります。この寮の中で食事をする学校の1つ、アッピングガム・スクールを昼時に訪れました。子どもたちはランチタイムに合わせて、授業から寮に戻り、ダイニングルームに集合します。食事の準備が整ったところで生徒たちは起立をした状態で寮長先生やその日のハウスチューター(家庭教師の先生)や私たちのようなゲストを迎えます。10人程度が座れる各テーブルに、家庭教師や寮長先生が一人づつ座り、子どもとの会話を楽しみながら、学業の進捗状況や悩みを共有し合い、子どもたちの些細な変化にも対応できる体制を整えています。
全校生徒が一堂に会する大きなダイニングホールで食事をするスタイルには、寮以外の仲間との交流が深まるメリットがあるでしょう。一方で寮の中のダイニングルームで食事をするスタイルには、いつも同じメンバーで食事をすることから寮内部の強固な団結心が育まれます。また食堂にいる生徒の数が圧倒的に少ないので、生徒一人一人を把握するのに優れています。
ボーディングスクールを選ぶ時に必要な親の目線
このように今のボーディングスクールは、食に関しても非常に恵まれた環境が用意され、留学生を意識したものになっていると言えるでしょう。私たちは、イギリスのボーディングスクールをよく知る学校選択のプロフェッショナルとして、保護者の方には「食の環境」もきちんと見て欲しいと伝えています。ボーディングスクールに「大きなダイニングホール」と「寮内の小さなダイニングルーム」という選択があること、日本ではあまり知られていませんが、5年間3食を学校で取る留学生にとって、軽んじることにできない要素かと思います。ですが、この2つの選択肢には正解、不正解はありません。あくまでも「好みの問題」で、どちらにも良さがあります。学校を選ぶ時には、できれば実際に訪問し、食関係の施設もしっかりと見た上で、どちらのほうが好きか、そして心地よいと思うのか、という点をお子さまと一緒にご家族内で話し合っていただければと思います。
執筆●Ben Hughes | ベン·ヒューズ
ピッパズ·ガーディアンズ代表。小中高校生のイギリス留学のエキスパート。全英約150のボーディングスクールと提携し、遠く離れた保護者に代わって留学生のケアとサポートを担うガーディアンシップ·サービスを10年以上に渡り手がける。その豊かな経験と深い知識、そしてボーディングスクールとの強固なネットワークから、ボーディングスクール入学を希望するご家族に、プライベートコンサルティングを提供。学校選択から、学校訪問のアレンジ、出願や試験までをサポートし、お子さまにとってふさわしい学校入学のために尽くしている。